「地域社会と危機管理研究所」活動報告（2000年度）
1.研究所概要 プロジェクト研究所概要欄参照
2.2000年度研究成果概要
本研究所では、現代社会における生活条件の変化と＜都市・地域文化の生成・変転＞＜まちづくりや地域活動等の集合的営為＞の実態把握を踏まえたうえで、脆弱化する＜地域対応力や危機管理のあり方＞を検証し、これらの地域力を支える地域文化の可能性と安心で安全な生活確保に向けての条件づくりについての研究を進めていく。とくに、防災まちづくりや防災福祉コミュニティ、安全な地域環境を志向した地域おこしや活性化の取組み等の＜地域における安全志向型コミュニティ活動＞の実態とそうした活動の有効性についての調査を実施し、そうした活動の可能性について、＜コミュニティの歴史的変遷＞や一定の社会経済的構造条件下での＜地域文化の形成や変容＞と関わらせながら、検討を加えていく。
２０００年度（平成１２年度）は、その前提として、阪神・淡路大震災や雲仙普賢岳噴火災害等の被災地域において、1）人口構成や密集度、住宅特性を含めた社会経済的構造条件、2）被害発生状況及び被害の社会的影響の連鎖、3）地域住民による個別ないし集合的な対応行動、4）その背景にある安全に対する意識や危機管理体制等の社会・文化的要因を、解明し整理することにより、いくつかの典型的な地域類型としてパターン化し、それぞれの地域類型における、被災から復旧・復興に至る社会過程を、事例に沿いながら典型的な展開過程としてモデル的に描き出した。N-US style='mso-fareast-font-family:"ＭＳ 明朝"'>
それとともに、防災まちづくりや防災福祉コミュニティ、安全な地域環境を志向した地域おこしや活性化の取組み等を対象にした（各都道府県を媒介にしての）資料収集と活動のカテゴリー化、及び、その中から大都市部では東京都、京都市、神戸市、地方中小都市では夕張市等の一部地域をとりあげての現地調査を実施した。これらの調査の中から、地域の社会経済的構造条件をふまえて、地域住民による集合的な活動のきっかけ、活動の組織化過程、活動維持条件についてモデル化すると同時に、活動の担い手になりうる人材育成のあり方やそれを支えている理念等についての知見も得ている。また、あわせて、今後のインターネット等での公表を念頭において、過去の被災地における被災実態とその後の再建過程についての情報収集も行った。
3. 2000年度の具体的な活動（研究会、講演会、シンポジウム等）
◆定例研究会
第１回定例研究会及び運営委員会
（4月24日午後６時半〜午後10時／場所：文学部第４会議室）
報告：浦野正樹「地域社会と危機管理研究所の趣旨」
第２回定例研究会
（5月24日午後６時半〜午後10時／場所：文学部第５会議室）
報告
下村恭広「グローバルな空間の生産とローカリティの変容」
小野幸一郎「市民・住民が自発的にまちを知り、考えるための環境づくりとそのルールづくり――災害経験・記録・活動のデータベース化とその活用の模索」
第３回定例研究会
（6月23日午後７時半〜午後10時半／場所：文学部第一会議室）
地域社会と危機管理研究所−まち・コミュニケーション合同シンポジウム
「まちに住む、まちを知る、まちで育む」
１．基調報告：震災を受けたまちの取り組み
御蔵地区：小野幸一郎（まちコミュニケーション）
真野地区：宮西悠司（神戸地域問題研究所代表）
西須磨地区：岡本碩也（福祉ネットワーク西須磨だんらん理事長）
２．パネル・ディスカッション
司会：小野幸一郎 パネリスト：浦野正樹、岡本碩也、宮西悠司
1） 2） 3）
第４回定例研究会
（７月21日午後５時〜午後８時半／場所：文学部39号館第７会議室）
報告
堀川三郎（法政大学）
「なぜ場所にこだわるのか――歴史的環境保存の社会学の問題構制」
吉川忠寛
「集合住宅の被災要因と復興への課題――トルコ・コジャエリ／ボル・ドゥズジェ ／阪神淡路大震災の経験から」
第５回定例研究会
（９月22日午後６時半から午後10時／場所：文学部第４会議室）
報告
小川裕文「旧産炭地における地域変動とアイデンティティ」
下村恭広「災害対策と持続可能な開発」
吉川忠寛「トルコ地震調査報告」
第６回定例研究会
（10月20日午後６時半〜午後11時／場所：文学部33号館第２会議室）
報告
小川裕文「夕張市の地域振興とその課題――市内各団体の対応」
土屋淳二「『地域防災と市民活動に関する調査報告書[1]』について」
大矢根淳「災害社会学の研究実践――「事前復興」対象地区への「街区単位・簡易型GIS」開発・導入の試み」
第７回定例研究会
（11月17日午後６時半〜午後11時／場所：文学部39号館第５会議室）
報告
小野幸一郎「台湾災害復興過程と支援活動」
第８回定例研究会
（12月13日午後６時半〜午後８時半／場所：文学部39号館第７会議室）
報告
浦野正樹「まちコミュニケーションとの共同プロジェクトについて」
三田啓一 「まちづくりと都市政策」
第９回定例研究会
（１月26日午後６時半〜午後９時半／場所：文学部第１会議室）
報告
早田宰「早稲田大学周辺のまちづくりについて」
浦野正樹「地域社会と危機管理研究所プロジェクト」
◆ワーキング・グループ
現在、以下のワーキング・グループが稼動している。各グループの会合については省略。
a.----「災害の社会学的影響」の調査研究を進めるためのワーキング・グループ
b.----災害誌に関わるデータベースなど、研究所の情報化関連作業を進めるためのワーキング・グループ
c.----市民活動ボランティア団体との連携をはかりながら、支援体制づくりとネットワーク構築を進めるためのワーキング・グループ
◆シンポジウム及び講演会
シンポジウム共催
「これからのまち、わたしたちのまち：震災の経験を未来へ」2000.11.26.
（開催場所： 墨田区向島一寺言問集会所）
第一部：墨田区一寺言問地区まち歩き、
第二部：「震災とは何だったのか：長田区御蔵通からの報告」
（パネリスト：市民社会研究所所長／今田忠、早稲田大学地域社会と危機管理研究所所長／浦野正樹、墨田区まちづくり推進課／小川幸男、まち・コミュニケーション代表／小野幸一郎、一寺言問を防災のまちにする会会長／佐原滋元、御蔵通5・6丁目町づくり協議会／田中保三、雨水リサイクル研究所所長／徳永賜男）
「第1回復興とまち映画祭：インターコミュニティの可能性」共催+協賛 2001.3.17〜18.（開催場所：大久保地域センター）
テーマ「長田・大久保・人とまちの未来」
ドキュメンタリー映像上演会（阪神・淡路大震災＝青池憲司、まち・コミュニケーション、トルコ地震）、
パネルディスカッション（映画監督／青池憲司、御蔵5・6丁目町づくり協議会／田中保三、まち・コミュニケーション／小野幸一郎、新大久保商店街振興組合／森田忠幸、外国人とともに住む新宿区まちづくり懇談会／山本重幸）以上2001.3.17.
テーマ「インターコミュニティを語る」
ドキュメンタリー映像上演会（阪神・淡路大震災＝青池憲司、台湾大地震＝張照堂）、
パネルディスカッション（まち・コミュニケーション／小野幸一郎、映画監督／青池憲司、あらばき協働印刷／関根美子、台湾・南福亀村／邱明民）以上2001.3.18.
浦野正樹「自主防災活動の活性化に向けた行政の役割について」中央防災安全研修会講演 自治省消防庁・（財）消防科学総合センター主催 2000.9.22.（開催場所：東京虎ノ門ニッショウ・ホール）
内容：全国の自治体、消防関係者を集めた防災研修会で、自主防災活動のあり様と自治体が果たすべき役割についての講演。
その他、防災講演会（群馬県主催2000.8.2.、秋田県主催2001.1.17.、新潟県新井市主催2001.2.25.）など自治体主催の講演会。
大矢根淳「災害時における人間心理〜あなた(防火管理者)は「ひとの子」・「組織の人」(スーパーマン)？〜」川崎市防火管理者上級講習会講演（高津市民会館 ２００１年３月２日）
内容：川崎市内の防火管理者（上級）を対象とした講習会でのレクチャー。「災害」という状況を再確認する必要性を指摘して上で、簡易型図上演習の手法を紹介した。
その他、原子力安全技術センター、消防大学校の講義を実施。
菅磨志保・小野幸一郎「大震災そして街づくり、ボランティアとして人として、今！神戸から何を学べるか」板橋区・木曜ボランティアサロン・市民活動サロン主催講演会（2000年9月 開催場所：大原社会教育会館）
4. 研究成果の発表
【編著書】
地域社会と危機管理研究所編『地域社会と危機管理研究所年報（2000年度）』第1集 2001年3月
浦野正樹+地域産業研究会編『転換期における地域社会と生活の変容 PART＜３＞』早稲田大学地域社会と危機管理研究所 2001年3月
浦野正樹他編『被災者への住環境提供・管理システムに関する研究――避難所・応急仮設から住宅再建への道――』早稲田大学地域社会と危機管理研究所 2001年3月
山下祐介・菅磨志保共編著『震災ボランティアの社会学（仮）』ミネルヴァ書房（※近刊予定） 2001年
【論文】
大矢根淳「阪神・淡路大震災〜災害と病院：救急医療体制と院内看護」
北川隆吉・木下安子監修『シリーズ現代社会と看護(第一巻)』中央法規出版，2000年 所収
大矢根淳「被災地における「生活再建」・「コミュニティ再興」〜「社会的課題の位相の転化」を調査し続けることとは〜」『地域社会学会会報』，2000年3月
小野幸一郎・木村明子著「阪神・淡路大震災被災地区での共同再建―「みくら5（ファイブ）」の事例―」
『住宅』49巻10号、社団法人日本住宅協会、2000.10.20.
菅磨志保「『災害弱者』と災害支援―阪神・淡路大震災以降の概念の広がりと対応の変化を中心に―」『日本都市学会年報』vol.34 2001年5月（刊行予定）
【学会発表】
大矢根淳「災害社会学の研究実践〜『事前復興』対象地区への『街区単位・簡易型GIS』開発・導入の試み」 日本社会学会大会(広島国際学院大学)，2000年。
大矢根淳「被災地における『生活再建』・『コミュニティ再興』〜『社会的課題の位相の転
化』を調査し続けることとは」 地域社会学会(研究例会)(東京大学)，2000年。
下村恭広「グローバルな空間の生産とローカリティの変容」早稲田社会学会大会2000.7.8.（開催地：早稲田大学文学部）
下村恭広「空間性の再考と都市・地域概念」日本社会学会大会 2000.11.13.（開催地：広島国際学院大学）
菅磨志保「『災害弱者』」と災害支援―阪神・淡路大震災以降の概念の広がりと対応の変化を中心に―」
日本都市学会第47回大会 2000.10.27-28.（開催地：仙台市）
5.2001年度活動予定
（１）被災地における社会構造、及び被災から復旧・復興に至る社会過程に関する追跡調査の実施
人口構成や密集度、住宅特性を含めた社会経済的構造条件、2)被害発生状況及び被害の社会的影響の連鎖、3)地域住民による個別ないし集合的な対応行動、4)その背景にある安全に対する意識や危機管理体制等の社会・文化的要因についてのパターン化・地域類型化を意識し、被災地内での被災から復旧・復興に至る社会過程との対比を行いつつ、調査研究を進めていく。
（２） 地域における安全志向型活動の実態とその有効性に関する調査研究
大都市、地方中小都市、農山村における防災まちづくりや防災福祉コミュニティ、安全な地域環境を志向した地域おこしや活性化の取組み等を対象にしたサーベイを継続する。対象は、前年度と同様に過去に防災まちづくり大賞（自治省消防庁／毎年選定／研究代表者はその審査委員）選考対象として各都府県等から推薦された事例等を取り上げる。そのさい、集合的な活動のきっかけ要因、社会的背景、組織化過程、これまでの活動実態と活動維持条件、活動の有効性、活動の担い手層、及び人材育成の理念やあり方等についての情報を収集し分析する。そのうえで、（1）の検討も踏まえながら、安全志向型コミュニティ活動の障害を析出し、地域の自己診断、地域課題の発掘、主体形成から課題解決への活動過程に必要なツールやプロセスを吟味する。
（３）過去の災害誌およびまちづくりの活動誌の収集・公開と地域活動の情報交流ネットワーク
過去の主要な災害における被災状況や復旧・復興過程の住民の取組みについて、写真、映像、記録などを含む災害誌の収集を進め、できるだけ今後の災害教育に役立つような形でデータベース化をはかる。同時に、ボランティア団体とも連携しながら地域活動同士の情報交流ネットワークの構築を進めていく。
（４）災害の社会学的研究分野における理論研究と経験的研究のサーベイと紹介
これまでの災害研究、とりわけ人文社会科学分野での研究蓄積についてのサーベイを進めるとともに、まだ日本において紹介されていない分野・領域について、概説を含めて紹介を行なっていく予定である。
6.研究所連絡先
〒162-4688新宿区戸山1-24-1 早稲田大学文学部 浦野正樹研究室内
電話 03-5286-3662 FAX
03-3203-7718
E-Mail: muranolt＠nifty.ne.jp